厚生労働省は、2025年6月から高温多湿な環境下で作業員を労働させる事業者に対し、熱中症対策の実施を義務化しました。熱中症を防ぐためには、暑さを緩和するための設備を導入する必要があります。
ところが、設備の規模や種類によっては、導入に多額の費用がかかるケースも少なくありません。そのような場合、補助金・助成金制度を利用する方法がおすすめです。昨今では、国や自治体では企業の熱中症対策を後押しするために、さまざまな補助金・助成金制度が用意されています。
これらの制度を活用することで費用負担を抑えることが可能となり、必要な設備を導入しやすくなります。本記事では、補助金・助成金の違いについて紹介するとともに、工場の熱中症対策で利用できる補助金制度、対象となる設備について詳しく解説します。
補助金・助成金制度とは
画像引用：補助金・助成金の活用による経営改善（日本政策金融金庫）
補助金とは、経済産業省や自治体が実施する支援制度です。助成金は、厚生労働省・自治体が管轄を行っている支援制度を指します。補助金と助成金は、いずれも事業者向けの支援制度ですが、利用目的・支給額に違いがあります。それぞれの制度は、主に以下の目的で利用することが可能です。
- 補助金……設備投資やシステム開発など、事業の成長・革新を目的とした投資を行った場合。
- 助成金……従業員の雇用促進・教育訓練・労働環境の改善など、人材に関する取り組みへの実施。
補助金の支給額は、おおよそ数十万円〜数千万円程度です。（※大規模な事業の場合、1億円以上の金額となるケースも）補助金制度には審査があり、採択率はおおよそ3〜5割程度と言われています。
助成金の支給額の目安は、約数万円〜数百万円です。補助金と比べると金額は少ないものの、支給要件を満たせば原則受け取ることが可能です。
参考記事：補助金・助成金の活用による経営改善（日本政策金融金庫）
熱中症対策で利用できる補助金・助成金制度
補助金・助成金制度は、支給対象や申請条件がそれぞれ異なるため、申請前に内容をしっかり確認することが大切です。まずは、事業主が熱中症対策を行った時に利用できる補助金・助成金制度について詳しく解説します。
- エイジフレンドリー補助金
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業（脱炭素ビルリノベ事業）
エイジフレンドリー補助金
エイジフレンドリー補助金とは、事業者が高年齢労働者（※60歳以上）の労働災害を防止するために取り組みを行った際に支給される補助金制度のことです。制度の種類は5種類あり、申請できる費用はそれぞれ以下のとおりです。
総合対策コース……労働安全衛生の専門家によるリスクアセスメントにかかる費用、もしくは労働災害防止対策を行った時にかかった経費（機器等の導入、工事の施工等）。
- 職場環境改善コース……高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置の導入、もしくは労働災害防止対策に要する経費（機器の導入や工事の施工など）。
- 職場環境改善コース（熱中症予防対策プラン）……作業環境を改善する設備・アイテムを導入した際にかかった費用。
- 転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース……転倒災害・腰痛の予防を目的として、専門家による身体機能のチェックおよび運動指導にかかる費用。
- コラボヘルスコース……労働者の健康保持・増進に向けた取り組みにかかる費用。（事業所カルテ・健康スコアリングレポートを活用したコラボヘルスなど）
熱中症対策で設備・アイテムを使用した場合は、「職場環境改善コース（熱中症予防対策プラン）」を利用します。その場合であれば、主に以下の目的で設備投資・アイテムを使用した際に、補助金を申請することが可能です。
画像引用：「令和７年度エイジフレンドリー補助金」のご案内（厚生労働省）
- 屋外作業等における体温を下げるための機能を持つ服（空調服など）
- 労働者の体表面の冷却を行うために必要な機器の導入（スポットクーラー・ミストファンなど）
- 健康管理が可能な、小型携帯機器の導入（ウエアラブルデバイスなど）
- 日本産業規格 JIS Z 8504 および、 JIS B 7922 に適合した WBGT 指数計の導入（1事業者につき1点まで）
補助金の交付は、１年度につき１回までです。複数コースの併用申請ができないため、申請時には対象コースを慎重に選定する必要があります。
参考記事：エイジフレンドリー補助金（厚生労働省）
参考資料：「令和７年度エイジフレンドリー補助金」のご案内（厚生労働省）
参考資料：令和 7年度エイジフレンドリー補助金 Q&A（厚生労働省）
省エネルギー投資促進支援事業費補助金
画像引用：省エネ支援制度のご案内（一般社団法人 環境共創イニシアチブ）
省エネルギー投資促進支援事業費補助金とは、事業者・個人事業主の省エネルギー対策を支援する補助金制度です。適用される取り組みは、主に以下のとおりです。
- 省エネ診断事業……省エネの専門家による省エネ診断にかかった費用。
- 省エネ・非化石転換補助金……省エネ設備の更新にかかる設備費などの費用。
省エネ診断事業では、工場全体のエネルギー使用状況を把握する包括的な診断に加え、特定の設備やプロセス単位での計測・分析を行った際にも、補助金の申請を行うことが可能です。
省エネ・非化石転換補助金の場合、以下で紹介する設備において「定められた基準を満たした、省エネ効果の高い高効率な設備（指定設備）」を導入・更新した際に、経費の一部が補助されます。
- 空調設備
- 冷凍・冷蔵設備
- ボイラー・工業炉などのユーティリティ設備
- 工作機械・印刷機など
省エネルギー投資促進支援事業費補助金は、その他にも「エネルギーマネジメントシステム（EMS）（※）を導入し、エネルギー使用状況の見える化を行う」、もしくは運用改善を図る事業に係る経費の一部についても補助を受けられます。
※エネルギーマネジメントシステム（EMS）……エネルギーの使用状況をモニタリングし、運用効率を最適化するためのシステムのこと。
参考記事：省エネ設備への更新支援（省エネ・非化石転換補助金）2025年版（一般社団法人 環境共創イニシアチブ）
ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業
ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業は、東京都が実施する中小企業向けの補助金制度です。補助金の申請には、省エネ設備の導入または運用改善によって、「年間のCO₂排出量を一定量、もしくは一定率以上削減できること」が条件として求められます。
- 助成対象となる削減基準……年間CO₂排出量が3t-CO₂以上、または30％以上削減できる見込みがあること。
補助金は、CO₂の削減量に応じて、助成率・上限額が異なります。
- 要件①：4分の3（助成上限額 4,500 万円）……年間28t-CO₂以上の削減が見込まれる設備の導入、または運用改善を行う。
- 要件②：3分の2（助成上限額 2,500 万円）……事前に省エネ診断を受診し、その提案に基づき3t-CO₂または30％以上の削減が見込まれる設備の導入、または運用改善の実施。
- 要件③：3分の2（助成上限額 1,000万円）……事業者が自ら計画を作成し、3t-CO₂または30％以上の削減が見込まれる省エネ設備の導入、または運用改善の実践。
主な対象設備は、高効率空調設備・LED照明設備・全熱交換器・高効率ボイラー・高効率変圧器・断熱窓などです。
参考記事：ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業（公益財団法人 東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター）
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業（脱炭素ビルリノベ事業）
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業とは、建築物の脱炭素化を早期に実現することを目的とした補助金制度のことです。外皮の高断熱化・高効率設備の導入を支援することで、エネルギー消費量・CO₂排出量の削減を目指します。主な要件、対象設備は以下のとおりです。
- 改修後の外皮性能BPIが、1.0以下となっている。
- 一次エネルギー消費量が、省エネルギー基準から用途に応じて30％、または40％程度以上削減されること。（ホテル・病院・百貨店・飲食店など：30%、事務所・学校など：40%）
- BEMSによるエネルギー管理を行うこと。
主な対象設備は、断熱窓・断熱材・高効率空調機器・高効率照明器具・高効率給湯機器などです。
参考資料：業務用建築物の脱炭素改修加速化事業（経済産業省・国土交通省連携事業）（環境省）
補助金・助成金の対象となる主な5つの設備
工場の暑さ対策・熱中症予防のために設備を導入すると、条件次第で補助金・助成金を活用できる可能性も。ここでは、補助金・助成金の対象となる可能性の高い設備について、具体的に紹介します。
- 高効率空調機器を導入する
- 空調服を着用する
- スポットクーラーを導入する
- 工場の屋根に遮熱シートを施工する
- 工場の機械に、遮熱シートを施工する
1. 高効率空調機器を導入する
高効率空調とは、省エネルギーで大きな冷房・暖房能力を引き出すことが出来る空調設備のことです。高効率空調は、センサーとインバータによる低負荷運転の組み合わせにより、省エネルギー化を実現しています。
環境省が定める「高効率空調機器」のうち、工場で設置できる設備は「設備用エアコン」です。設備用エアコンとは、電動圧縮機を用いたヒートポンプ方式の空気調和機を指します。
環境省は、設備用エアコンにおける「高効率空調機器」について、JIS B8616に基づく計算式で算出されるCOP（成績係数）またはAPF（通年エネルギー消費効率）が、所定の基準を満たすものと定義しています。
- APF……冷房能力≦14.0kW：4.4、14.0kW＜冷房能力≦28.0kW：4.5
- COP……28.0kW＜冷房能力≦45.0kW：3.55、45.0kW＜冷房能力≦56.0kW：3.48、56.0kW＜冷房能力：2.90
高効率空調機器は、省エネ対策を推奨している補助金・助成金制度で利用できます。
【利用できる補助金・助成金制度】
- エイジフレンドリー補助金
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援
参考記事：高効率空調設備に更新・省エネ化の前の基礎知識編（株式会社エコと省エネルギーサポート）
2. 空調服を着用する
空調服は、腰・脇下に小型ファンを搭載した衣類のことです。ファンが外気を取り込み、服の内部に風を循環させる働きによって、汗を効率よく乾かし、体温の上昇を抑える効果があります。
空調服は「汗を乾かす」以外にも、ファンから服の中に外気を取り込み、汗の気化熱を利用して身体を冷やす効果も期待できるので「熱中症対策」に最適です。空調服の導入は、一定の条件を満たすことで補助金制度の対象となる可能性があります。
たとえば、エイジフレンドリー補助金（熱中症対策）の場合、空調服は「体温を下げる機能を備えた服や装備」として、補助金の申請条件に該当します。そのような理由から、現場に60歳以上の労働者が1名以上常時就労している場合であれば、補助金の申請が可能です。
3. スポットクーラーを導入する
スポットクーラーとは、本体内部で空気を冷却し、必要な場所にピンポイントで冷風を送ることができる冷房機器のことです。スポットクーラーは、電源プラグさえあればすぐ使用でき、キャスター付きのモデルも多いなどの理由から、エアコンの取り付けが難しい場所、もしくは一時的な作業スペースへの設置にも適しています。
画像引用元：YAMAZEN 排熱ダクト付スポットエアコン（クーラー）白 YS-422D - ASKUL
スポットクーラーは、現場に60歳以上の労働者が1名以上常時就労している場合、エイジフレンドリー補助金の「職場環境改善コース（熱中症予防対策プラン）」の対象となる可能性があります。
関連記事：町工場でできる暑さ対策。暑さの理由と、手軽に・素早くできる具体的な対策
4. 工場の屋根に遮熱シートを施工する
夏の暑い時期になると、工場の屋根は、太陽から発生する輻射熱の影響で、屋根が高温になってしまいがち。輻射熱とは、遠赤外線により伝わる熱の一種です。輻射熱には「人体の奥まで熱を伝える」作用があり、人体の体感温度を上げる原因のひとつと言われています。
屋根に熱がこもると、室内に向けて輻射熱が放射され、暑さを感じやすくなります。夏の暑さ対策を行うには、工場の屋根に遮熱シートを設置する方法がおすすめです。
遮熱シートとは、輻射熱を反射する性能を持つ金属製アルミシートのことです。屋根に遮熱シートを設置することで、日射による輻射熱を反射し、夏の暑さ対策に活かすことが可能です。
工場屋根は凹凸のある「折板屋根」を使用しているケースが多いので、屋根に遮熱シートを取付けるスカイ工法がおすすめです。スカイ工法とは、輻射熱の反射に優れた遮熱材「スカイシート」を折板屋根に貼り付ける工法のこと。
スカイ工法は、折板屋根のジョイント部分をシートで被うことができるので、遮熱対策のみならず「雨漏り防止」効果も期待できます。
スカイ工法には、室内外の熱移動を抑える働きもあるので、空調効率がアップする効果も。その働きによって、省エネ効果が期待できるので、補助金・助成金制度を利用できる可能性があります。
利用できる補助金・助成金制度
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援
関連記事：スカイ工法
5. 工場の機械に、遮熱シートを施工する
工場内の機械からは、人体の体感温度を上昇させる輻射熱が発生しています。この輻射熱を抑えるためには、機械に遮熱シートを施工する方法が効果的です。機械に遮熱シートを設置することで、輻射熱の影響を受けにくくなり、夏の暑い時期も快適に過ごせます。
乾燥炉などの大型機械に遮熱シートを設置する場合は、機械全体を覆うことができる「フィット工法」が最適です。フィット工法とは、遮熱シートをテント状に縫製し、機械を丸ごと囲み込む方法のこと。
大型の機械でもすっぽり包むことができるため、機械から出る熱をしっかりカットすることが可能です。フィット工法の導入により、スカイ工法と同様に空調効率の向上が期待できるため、条件を満たせば助成金の対象となる可能性があります。
関連記事：フィット工法
高純度アルミ遮熱シート「サーモバリア」で、熱中症対策と省エネを両立
遮熱シートは、アルミ純度が高いものほど反射性能が向上します。弊社の遮熱シート「サーモバリア」は、アルミ純度99%以上の高純度アルミ箔を使用しており、屋根・機械への施工によって熱中症対策に高い効果を発揮します。
弊社で実施した実験「スカイシートを施工した試験棟と、折板屋根のままの試験棟の内部の雰囲気温度の差を測定する」によると、サーモバリアを屋根に設置したことにより、以下のような結果が得られています。
- 屋根裏の温度が最大9℃低下し、屋根裏の暖気塊の温度は約4℃低下した。
- 屋根の断熱性が向上し、冷房の消費電力を18〜27％削減することが可能に。
サーモバリアの施工により、一度で熱対策・省エネ効果を同時に実施することが可能です。サーモバリアの施工を行う代理店では、導入前に省エネ効果を実感できるシミュレーション（エアコンの負荷軽減・電気代削減・CO₂排出量など）も実施しています。これらのシミュレーションは、補助金申請時に必要となる「省エネ効果の概算」にも活用できます。
関連記事：遮熱シートの効果とは？実際の実験データからその疑問にお答えします
関連記事：スカイ工法 省エネ効果
まとめ
熱中症対策で利用できる補助金・助成金制度は、主に以下のとおりです。
- エイジフレンドリー補助金
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業
- 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業（脱炭素ビルリノベ事業）
補助金・助成金制度には、それぞれ異なる支給条件が定められており、導入の目的によっては申請が認められないケースも……。たとえば、エイジフレンドリー補助金の場合、「60歳以上の高年齢労働者が、常時1名以上就労していること」が申請条件のひとつです。
申請を検討する際は、各制度の募集要項をよく確認し、目的に合った制度を選定してください。弊社の遮熱シート「サーモバリア」は、省エネ効果の高い遮熱材として、補助金・助成金制度の対象となる可能性があります。
過去には、スカイ工法を屋根に設置して、補助金が下りたケースも。たとえば、滋賀県長浜市にある高橋金属株式会社様は、工場における快適な職場環境づくりに向けた取り組みなどを支援する「新時代開拓支援補助金（※現在は受付を行っていません）」を活用し、屋根にスカイ工法を設置しました。
導入後は工場内の温度が下がり、従業員からも「涼しくなった」と喜びの声が上がっているそうです。このように、弊社の「サーモバリア」は暑さ・熱中症対策だけでなく、省エネ効果も期待できるため、光熱費を抑えたいとお考えの事業者様にもおすすめです。
「暑さ対策をしたいけれど、予算が足りない……」という場合は、補助金・助成金を利用できる可能性が高い遮熱シートの導入も、ぜひご検討くださいませ。
