工場は、日射や機械から発生する熱の影響を受け、室温が上昇します。工場内の温度が上昇すると、そこで働く従業員が熱中症になるリスクが高くなるので、原因を踏まえた上で適切な対策を行うことが大切です。
2025年6月以降、厚生労働省は高温多湿な環境で作業を行わせる事業者に対し、熱中症対策の実施を義務付けました。適切な措置を講じない場合、罰則の対象となる可能性もあるため、該当する事業者は早急な対応が求められます。
工場の熱中症対策として注目されているのが、ミスト装置の導入です。ミスト装置とは、加圧された水が極めて口径の小さなミストノズルから押し出され、細かな霧を発生する設備のことです。ミスト装置は、霧の効果によって広範囲に渡って周囲を冷却するメリットがある一方で、少なからずデメリットもあるので設置の際には注意が必要です。
本記事では、ミスト装置が熱中症に役立つ理由とともに、工場に設置可能なミスト装置の種類、設置するメリット・デメリットについて紹介します。
目次
ミスト装置が熱中症対策に役立つ理由
熱中症とは、高温多湿な環境下で長時間過ごすことで、体温調節が上手く機能しなくなり、けいれん・めまいなどの症状を起こすことを指します。熱中症は、重症化すると最悪死に至ることがあるので注意が必要です。
画像引用:熱中症の原因・なりやすい環境や暑さ指数(WBGT)について知ろう(一般財団法人日本気象協会)
熱中症対策の一環として、工場の屋外・屋内にミスト装置を設置して、空間を効率的に冷却する方法があります。ミスト装置は、霧状の水滴が空気中で気化する際に、周囲の熱を奪って気温を下げる「気化熱」の原理を利用して、周囲を冷却します。
気化熱は、人が暑さを感じた時に汗(水分)を蒸発させて体の表面温度(皮膚温)を下げ、体温の上昇を防ぐ仕組みと同じです。ミスト装置を工場に設置することで、室内の熱を冷却し、夏の暑い時期も快適に過ごせます。
工場の熱中症対策に役立つミスト装置を紹介
ミスト装置には種類があり、それぞれ特徴に違いがあるので、目的と用途にあわせて選びましょう。ここでは、暑さ・熱中症対策に役立つミスト装置の種類と、それぞれの特徴について紹介します。
- ミストファン
- ミストシャワー
- 屋根用スプリンクラー
ミストファン
画像引用:コードレス ミストファン(etg)
ミストファンとは、微細なミスト(霧)を拡散して、気化熱で冷却する送風装置のことです。 ミストファンの設置によって、周囲の温度を3〜5℃ほど低下させることが可能です。 ミストファンには、主に以下の種類があります。
- 工場扇取付タイプ……手持ちの工場扇に、簡単に取り付けできるタイプ
- 移動式タイプ……タンク一体式で移動ができる
ミストファンは、屋内・屋外のどちらでも使用できます。移動式のミストファンであれば、必要なタイミングで必要な場所に設置して稼働させることも可能です。屋外、もしくは蛇口がない場所で使用する場合は、電源コード・水道ホースが不要なコードレスタイプのミストファンを選ぶと良いでしょう。
参考記事:ミスト噴霧ユニットのメンテナンス方法(株式会社モノタロウ)
ミストシャワー
画像引用:ミストシャワー(株式会社オプス)
ミストシャワーとは、水を霧状にして空気中に散布することで、周囲の温度を下げる冷却装置のことです。ミストシャワーには、主に以下の2種類があります。
- 水道直結型……水道に直接接続するだけでミストを生成できるタイプ。
- ポンプユニット型……高圧ポンプを使用してミストを生成するタイプで、冷却効果が高く、広範囲への噴霧が可能です。
水道直結型は、水道の水圧のみで作動するため、ノズルの間隔やチューブの長さ、設置高さによってミストの粒子の細かさが変わります。電源が不要なため、手軽に設置できるのも嬉しいメリットのひとつと言えるでしょう。
ポンプユニット型は、水道直結型に比べて冷却性能が高く、広範囲に渡り涼しくすることが可能なため、イベント会場など不特定多数の人が集まる場所での暑さ対策に適しています。それぞれ、メリットと適した使用環境に違いがあるため、設置場所や目的に応じて選ぶことをおすすめします。
屋根用スプリンクラー
画像引用:屋根散水システム【暑熱対策】(株式会社イーエス・ウォーターネット)
工場の屋根は、金属製の折板屋根を採用しているケースが多いです。金属は熱伝導率が高い素材のため、夏の暑い時期になると日射の影響を受けて、室温が上昇します。
工場の暑さ対策には、屋根に熱がこもるのを防ぐ「屋根用スプリンクラー」の設置が有効です。屋根用スプリンクラーとは、工場・倉庫の屋根に水を散布する装置のこと。スプリンクラーによって屋根に水を噴射することで、屋根の表面温度が下がり、その働きによって室内の温度が低下します。
屋根用スプリンクラーには、ソーラーパネル(太陽光パネル)を冷却する効果も期待できます。ソーラーパネルは温度が上昇すると発電効率が落ちるため、冷却によって発電効率が回復すれば、省エネ・節電効果も得られることでしょう。
参考記事:屋根散水システム【暑熱対策】(株式会社イーエス・ウォーターネット)
ミスト装置のメリット
ミスト装置を工場の屋根・屋外や屋内に設置することで、さまざまなメリットを受けることが可能です。ここでは、ミスト装置を設置するメリットについて詳しく解説します。
- 効率的な冷却・加湿が可能
- 作業場の空気を清浄化する
- 省エネ効果が期待できる
効率的な冷却・加湿が可能
高圧ポンプを使用してミストを生成するタイプの場合、粒子の細かい霧を広範囲にわたって放出するため、広い空間も効率的に冷却・加湿することが可能です。装置から放出された微細なミスト粒子は、空中で即座に蒸発するため、地面・周囲を濡らすことなく使用できます。
装置から発生するミストは、粒子が小さいものほど蒸発しやすく、冷却効率も高くなります。熱中症対策の効果をより高めたい場合は、微細なミストを安定して噴霧できる「高性能なミスト装置」を選ぶことをおすすめします。
ミスト装置は加湿効果が高いため、夏の暑さ対策だけでなく、冬場の加湿対策にも効果的です。ただし、省スペースの場所で使用する際には、湿度が上がり過ぎないよう、換気装置と併用して使用する方法がおすすめです。
参考記事:ミストファン(Zenken株式会社)
防塵効果が期待できる
画像引用:ミストの防塵効果(グリーン.コムジャパン株式会社)
ミスト装置は、周囲を冷却するだけではなく、防塵効果も期待できます。ミスト装置が稼働すると、霧状の水粒子が大気中に拡散し、0.1~1000ミクロンの微細な粉塵を包み込んで地面へと落下させます。
この働きによって、空間における粉塵の浮遊量を抑えることが可能です。ただし、水粒子と粉塵のサイズ差が大きい場合には、粉塵が水粒子の表面を押し流してしまうため、十分な効果が期待できません。
ミスト装置は防塵効果が高いため、建築現場・ごみ集積所・製材所など、微細な粉塵が舞いやすい作業環境への設置に適しています。
参考記事:ミストの防塵効果(グリーン.コムジャパン株式会社)
省エネ効果が期待できる
移動式のミスト装置(ミストファンなど)は、特定の作業エリア・作業者を局所的に冷やすことが可能です。そのような理由から、「広範囲を涼しくする」のではなく、「必要な場所だけを、効率よく冷やしたい」といった用途に適しています。
局所冷却が可能なため、不要なエネルギー消費を抑えることができ、効率的な暑さ・熱中症対策が可能です。ミストシャワーの場合であれば、消費電力量が一般的なエアコンの約20分の1で済むため、省エネ効果も期待できます。
参考記事:工場の暑さ対策と省エネを両立!ミストシャワー冷房で実現する快適環境づくり(Spraying Systems Co)
ミスト装置のデメリット
ミスト装置は、暑さ対策や冷房代の節約効果が期待できますが、少なからずデメリット面もあるので、設置の際には注意してください。本項目では、ミスト装置のデメリットについて紹介します。
- 水源・電源・設置スペースが必要
- 湿度が高くなりすぎると、熱中症を招く恐れも
- 定期的なメンテナンスが求められる
水源・電源・設置スペースが必要
ミスト装置を使用する際には、水源の確保が求められます。水道設備が整っていない場所であれば、別途「水タンク」の設置や、配管工事が必要になるケースも。水圧が不足している、もしくは配管が老朽化している場合は、事前にメンテナンス・改修工事を行わなければなりません。
移動式のミストファンを設置する際は、「十分な設置スペースが確保されているか」についても、事前に確認しておきましょう。コンセント式のミストファンを使う場合であれば、設置場所に電源があるかどうかも忘れずにチェックしておくと安心です。
ミストファンで使用する水に、工業用水・井戸水を使用すると、水に含まれるミネラル成分が析出し、ノズルの目づまりを引き起こす可能性があります。トラブルを防ぐためにも、使用する水は必ず上水を利用してください。
参考記事:失敗しないミスト装置の選び方(INSECT株式会社)
湿度が高くなりすぎると、熱中症を招く恐れも
ミスト装置を使用すると、空気中の水分量が増加し、湿度が上昇します。湿度が上昇すると汗が蒸発しにくくなり、体内に熱がこもりやすくなるため、熱中症のリスクを高める可能性も……。
画像引用:湿度が高い梅雨の時期、熱中症の注意点は?(一般財団法人日本気象協会)
ミスト装置を使用する際には、使用環境(温度・湿度・換気状況)を確認した上で使用することが大切です。屋外・大規模な施設では、水蒸気が十分に拡散されるため快適に使用できますが、ミスト装置を限られたスペースで使用すると湿度がこもり、かえって蒸し暑さを感じる可能性があるため注意が必要です。
狭いスペースに設置する際には、湿度が高くならないように、換気・噴霧量の調整を行うなどの対策を行ってください。
定期的なメンテナンスが求められる
ミスト装置において、ノズルは水を微細な霧状に変える重要なパーツのひとつ。しかし、ノズルは使用を続けるうちにカルシウム・ミネラルなどの堆積物が付着しやすく、これが詰まりの原因となって噴霧効率の低下を招く恐れがあります。できれば月に一度程度の頻度で、ノズルを取り外し洗浄を行うことをおすすめします。
ミスト装置を使用しない期間は、配管やポンプ内部の水抜き・清掃を行い、衛生状態を保つよう努めて下さい。タンク一体型で移動が可能なミストファンの場合は、タンク内の水抜きも忘れずに行いましょう。
こうした管理を怠ると、カビの発生や冷却効果の低下につながる恐れがあります。長く快適にミスト装置を使い続けるためにも、こまめな点検と清掃を心がけましょう。
参考記事:失敗しないミスト装置の選び方(INSECT株式会社)
ミスト装置の課題を解決する熱中症対策
ミスト装置は、屋外や広い空間での熱中症対策に役立ちますが、場所によっては設置できない、もしくはかえって熱中症を招いてしまうというケースも……。本項目では、ミスト装置の課題を解決する熱中症対策について紹介します。
- 空調服を着用する
- 工場の屋根に、遮熱シートを施工する
- 工場の機械に、遮熱シートを施工する
空調服を着用する
空調服とは、腰・脇下部分に小型ファンがついた作業服のことです。空調服を着用することにより、服の内部にこもる熱を袖口・襟元などから排出し、夏の暑い時期も快適に過ごせます。
空調服は、ミスト装置と同じように、汗の気化熱を利用して「体を冷やす」効果も期待できます。空調服はミスト装置のように水滴を発生させないため、狭い空間でも「湿度が高くなる」という心配もなく、安心して利用できます。
さらに、空調服の襟(内側)にある「調整紐」を留めることで、首元と空調服の間に空気の通り道が生まれ、より涼しく過ごせます。
参考記事:空調服とは(株式会社 空調服)
工場の屋根に、遮熱シートを施工する
工場の屋根に遮熱シートを施工することで、日射による輻射熱が室内に侵入するのを防ぎ、室温上昇を防ぎます。輻射熱とは、遠赤外線によって伝わる熱のことです。人体の体感温度を上げる作用をもつ輻射熱を防ぐことで、夏の暑さ・熱中症を防ぐ効果が期待できます。
工場の屋根に遮熱シートを施工する場合、輻射熱の反射に優れたアルミ箔を使用したスカイシートを取り付ける「スカイ工法」がおすすめです。

スカイ工法は、シートを屋根に直接貼り付けるため、作業者の技量の優劣、作業時の天候に関係なく均一な遮熱効果を発揮します。スカイ工法には、工場の屋根に多く採用されている「折板屋根特有の雨漏れ」を防ぐ効果もあるため、一度の施工で熱対策・雨漏り対策を同時に実施することが可能です。
関連記事:スカイ工法とは?
工場の機械に、遮熱シートを施工する
工場内に多数の機械が設置されている場合、そこから発生する輻射熱の影響により、室温が上昇します。そのような環境下であれば、遮熱シートを機械に設置する方法が有効です。機械に遮熱シートを施工することで、室内にこもる熱を屋外へ排出し、夏の暑い時期も涼しく過ごせます。
乾燥炉のような大きな機械であれば、両面にアルミ箔を施した不燃シートをテント状に縫製し、機器全体を囲み込む「フィット工法」がおすすめです。
フィット工法で使用する不燃シートは0.2mmと薄いものの、耐熱性能に優れているため、さまざまな高温の熱を発生する機械に設置することが可能です。
関連記事:フィット工法
遮熱効果を高めるなら、高純度のアルミ箔を使用した「サーモバリア」が有効
遮熱シートは、アルミ純度が高いものほど、輻射熱を反射する性能が高くなります。弊社のサーモバリアは、アルミ純度99%以上のアルミ箔を用いた極めて薄い遮熱シートです。JIS規格に基づく熱実(JIS規格A1420)より得られたデーターを精査した結果、サーモバリアは熱線を反射する極めて高い能力を有することが判明しています。
その断熱効果は、厚さ70㎜のグラスウールにも匹敵します。高純度のアルミ箔を使用したサーモバリアを工場の屋根に施工することで、日射から発生する輻射熱を大幅にカットし、夏の暑さや熱中症対策に高い効果を発揮します。
サーモバリアは保持力・水密性に強く、耐久性にも優れています。ただし、表面に汚れやホコリが蓄積すると熱反射率が低下するため、年に1〜2回の定期的な点検・清掃を推奨します。
関連記事:サーモバリアの効果・実証実験
まとめ
ミスト装置は、広範囲の冷却・加湿・省エネ効果など多くのメリットがありますが、湿度の上昇やメンテナンス負荷といった課題も少なくありません。とくに工場などの大規模施設では、局所冷却型のミストファンやミストシャワーだけでは十分な効果が得られないといったケースも……。
そうした環境では、輻射熱の影響を受けやすい屋根・機械に直接施工できる遮熱シート「サーモバリア」を活用するのもひとつの手段です。さらにサーモバリアには、物体から放出される熱を抑える(閉じ込める)特性も備えています。冬の寒い時期であれば、熱を室内側に反射させる作用によって、室温低下を防ぎます。
工場の屋根・機械にサーモバリアを施工して、年間を通じて快適な環境づくりに役立ててください。


































